さあ、婚活を始めよう

自分自身との対話:描けない理想のパートナー像

「さあ、婚活を始めよう」

そう決意した時、私たちの前に最初に立ちはだかるのは、意外にも自分自身の心の中にある、分厚く、そして霧のかかったような壁かもしれません。結婚相談所の登録用紙、マッチングアプリのプロフィール欄。そこには決まって「お相手に望むこと」を記入する項目があります。その真っ白な空欄を前に、ペンがぴたりと止まってしまう。「どんな人がいい?」と友人に尋ねられ、うまく言葉にできない。そんな経験はないでしょうか。

「どんな相手となら、自分は幸せになれるのだろう?」

この問いは、どこまでも深く、そして果てしない問いです。まるで、コンパスも地図も持たずに、広大な海へ漕ぎ出そうとする船乗りのような心細さ。周りを見渡せば、「年収はこれくらい」「身長は…」「長男は避けておきたい」など、明確な「条件」を語る友人たちの声が聞こえてきて、ますます焦りを感じてしまうかもしれません。

しかし、理想のパートナー像が描けないと悩むことは、決して特別なことでも、ましてや婚活へのやる気がないわけでもありません。むしろそれは、あなたが「結婚」というものを、スペックの組み合わせではなく、一人の人間との「人生」として真摯に捉えようとしている証拠なのです。

私たちは、知らず知らずのうちに、世の中の「幸せのテンプレート」に自分を当てはめようとしてしまいます。ドラマで描かれるようなロマンチックな恋愛、雑誌で特集される理想の夫婦像、親や友人から聞かされる「普通はこうあるべき」という価値観。それらの情報が多ければ多いほど、自分の本当の心の声はかき消され、「誰かの理想」を自分の理想だと勘違いしてしまうのです。

もし、あなたが「理想の相手」が分からずに立ち止まっているのであれば、一度その問いから離れてみませんか。そして、問いの主語を「相手」から「自分」へと変えてみるのです。

「“どんな相手”となら幸せになれるか?」ではなく、**「“どんな自分で在りたい”か?」**と。

あなたが心から笑っているのは、どんな時ですか? 何かに夢中になっている時、隣にいる人に、どう見守っていてほしいですか? 落ち込んだり、疲れたりした時、どんな言葉をかけてもらえたら、心が安らぎますか? どんな景色を、二人で一緒に見たいと思いますか?

これらの問いに、すぐに完璧な答えを出す必要はありません。大切なのは、スペックや条件といった「外側の物差し」ではなく、あなた自身の心がどう動くかという「内側の感覚」に耳を澄ませることです。

例えば、「穏やかな時間を大切にしたい」という自分の気持ちに気づけば、刺激的な毎日を求める人よりも、一緒にコーヒーを飲みながら静かに対話できる人の方が心地よいかもしれません。「新しいことに挑戦するのが好き」だと分かれば、あなたの背中を押してくれる好奇心旺盛なパートナーとの生活が、より彩り豊かになるでしょう。

「理想のパートナー」とは、どこかに存在する完璧な誰かを探し出すことではありません。それは、不完全な自分と、そして不完全な相手と、二人で一緒に「幸せな関係」を築いていく、その旅路そのものなのです。

だから、今はまだ、理想のパートナー像が描けなくても、何も心配することはありません。その戸惑いや悩みこそが、あなただけの幸せの形を見つけるための、最も誠実で、最も大切な第一歩なのですから。まずは、あなた自身の心との対話を、ゆっくりと始めてみましょう。その先に、きっと未来のパートナーへと続く道が見えてくるはずです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です