本当に結婚したいのか、自分の気持ちがわからない

「結婚、そろそろ考えた方がいいのかな」

ふと、そんな言葉が胸の内でつぶやかれる時。それは、友人の華やかな結婚報告がSNSを彩った時かもしれないし、親からの「いい人はいないの？」という何気ない一言が、心に小さなさざ波を立てた時かもしれません。あるいは、一人で夕食を終えた静かな部屋で、漠然とした将来への不安がよぎった瞬間かもしれません。

社会という大きな船に乗っていると、「結婚」はいつしか、たどり着くべき一つの港のように見えてきます。年齢という名の海流に乗り、周囲の船が次々とその港に入っていくのを目にすれば、焦りや不安を感じるのは自然なことでしょう。しかし、いざ自分も舵を切ろうとしたその時、心の羅針盤がくるくると回り出し、どの方角を指しているのか分からなくなってしまうことがあります。

「私、本当に結婚したいのかな？」

この問いは、婚活という大海原へ旅立つ前に多くの人がぶつかる、最初の、そして最も大きな壁かもしれません。それは、単純な「YES/NO」で答えられる問いではありません。この問いの奥底には、これまで自分が築き上げてきた価値観、守ってきた自由、そして未来への期待と不安が複雑に絡み合っているからです。

なぜ、自分の気持ちが分からなくなってしまうのでしょうか。

一つには、あまりにも「結婚」という言葉を大きな塊として捉えすぎているからかもしれません。「人生の墓場」なんていうシニカルな言葉もあれば、「最高の幸せ」というキラキラしたイメージもあります。しかし、そのどちらも、他人が作り上げた幻想の側面を持っています。今の自由な生活が失われることへの恐怖、経済的な負担、人間関係の変化。そうしたデメリットばかりが頭をよぎり、結婚という選択そのものが、何かを諦めることのように感じられてしまう。

一方で、心の中には確かに「誰かと共に生きたい」というささやかな願いも存在しているはずです。美味しいものを食べた時に「これ、あの人にも食べさせてあげたいな」と思ったり、辛いことがあった夜に「誰かに話を聞いてほしいな」と感じたり。その感情は、決して社会的なプレッシャーから生まれたものではなく、あなた自身の内側から湧き出てきた本心の一部です。

もし今、「本当に結婚したいのかわからない」という霧の中にいるのなら、焦ってその霧を晴らそうとする必要はありません。まずは、その「わからない」という気持ちを、ありのまま受け止めてあげてください。それは、あなたが自分自身の幸せに対して、誰よりも真剣に向き合おうとしている証拠なのですから。

大きな「結婚」という言葉を、一旦脇に置いてみましょう。そして、自分の心にこう問いかけてみてください。

「誰かと一緒に、温かいごはんを食べたいと思う？」 「休日の午後、隣に誰かがいてくれたら嬉しいと感じる？」 「心の底から信頼できるパートナーと、人生の景色を分かち合いたい？」

そうやって、具体的な日常のワンシーンに分解してみると、「結婚」という漠然としたプレッシャーから解放され、自分の素直な欲求が見えてくるかもしれません。

婚活を始める前のこの自己対話は、決して遠回りではありません。むしろ、自分だけの幸せの形を見つけるための、最も重要な航路図作成のプロセスです。自分の心の声にじっくりと耳を傾け、自分にとっての「心地よい関係性」とは何かを探求すること。その先にこそ、あなたが心から「この人と生きていきたい」と思える未来が待っているのですから。

この壁は、あなたを阻むものではなく、あなた自身を深く知るための「扉」なのです。さあ、ゆっくりと、その扉を開けてみましょう。